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「エアルームシードと自家採種の楽しみ。」
自休自足9号掲載
太陽が日ごとに輝きを増し、種蒔き人には嬉しい季節が到来しました。みなさん、今年は何を蒔きますか? せっかく種から育てるのなら、エアルーム品種を手に入れて自家採種をしてみましょう。
種から育て種を採る
種から野菜や花を育て、その種を採る楽しみは、植物の一生にまるごとつきあえることです。種を採る時季を待つ間、見なれた野菜が意外にも美しい花を咲かせるのを見たり、莢(さや)が乾燥して、カラカラと楽器のような音色を奏でるのを聞いたり、「こんなこと知らなかった!」と小躍りするような瞬間を数多く経験しました。
私の「種採り人生」は、いまだに歴史と呼べるものではありません。でも、手元にある採種した種には、先人たちが世代を重ねて育種してきた長い歴史が内包されています。世界には、さまざまな人たちによって守られてきた物語のある種があるのです。これらの種はエアルームシードと呼ばれています。
エアルームという生命ある遺産
「エアルーム」とは、先祖代々伝えられてきた、という意味です。一般的には50年以上栽培されたものを指しますが種子保全団体の草分けであるシードセイバーズエクスチェンジでは、「ある家族の中で宝石や家具のように歴史的に受け継がれてきたあらゆる園芸品種」と定めています。いわば家庭菜園家や農民が代々採種を繰り返し、世代から世代へと伝えてきた「家宝種」なのです。
新天地への移民や嫁入りなど、人間の移動と共に種子も一緒に旅をしました。ひと粒の種の中に遠い故郷や祖先の記憶を宿したエアルームシードは、まさに生命のある遺産なのです。
エアルーム品種の魅力は、種にまつわる物語性、豊かなフレーバー、高い栄養価、美しい姿など色々とあります。生産者の都合に合わせ、均一な速度で育つF1
品種と比べて、株ごとに生育速度にばらつきがある点も、家庭菜園家にとっては長く収穫出来るという魅力になります。また、チャーミングな植物のネーミングも心を惹かれるもののひとつです。私の手元にも、人の名前がついたものや「グランマ〜」と呼ばれるエアルームシードがあります。蒔いて育ててみるまで、どのような植物なのかわかりません。まるで種そのものが福袋のようなもの。ワクワクしながら成長を見守っています。
シードセイバーという大切なしごと
1975年、ダイアン&ケント・ウィアリーによって設立された前出のシードセイバーズエクスチェンジ(以下SSE)は、エアルーム品種の保全団体です。世界中の8000人のメンバーが、魅力あふれる文化遺産としてのエアルーム品種を未来に受け継ぐことに貢献しています。
在来種やエアルームシードなどの品種は、1960年頃のF1品種の台頭をきっかけに、世界中で急速に姿を消し、やがて自家採種という慣習や技術そのものが失われていきました。その他、紛争や自然災害によっても多くの種子が失われています。
現在では、種を守ることの大切さに気づいた多くの人々が、シードセイバー(種を守る人)として活動し、SSEと同様の組織は世界各地に設立されました。
2つの種の物語
SSEのケント・ウィアリーに刺激を受けて種子保全団体を創設した、オーストラリアのミシェルファントン氏から聞いた話を紹介します。それは、彼のフランスの実家に伝わる奇跡の豆“ロザリオ・ビーン”の物語。
第二時世界大戦の時、ミシェルのおばあさんは、家族のお気に入りの野菜の種を、先祖代々伝わる宝石や金貨等の大切な財産と一緒に隠す事にしました。おばあさんは、これらの家宝をカトリックの老神父に預け、ロザリオや十字架といった教会の神聖な品物と一緒に土に埋めてもらいました。戦争が終り、掘り起こして種を取り出しました。春になり豆を蒔き、育て、やがて収穫の時期になりました。いつものようにカラカラ音がするほど乾燥させた莢から豆を取り出すと、なんとクリーム色だった豆が赤みを帯びた色になり、十字架が浮き出ていたのです。おばあさんはその場でひざまずき、祈りをささげたということです。
もうひとつは、昨年私が採取した種にまつわる物語です。友だちの内田さんという農家で納屋の片付けを手伝っていた時のこと、ほこりだらけの茶色い酒瓶が数本出てきました。中にあったのは黒と赤の小豆。出してみると虫食いだらけ。この豆は数年前に亡くなった内田さんのお母さんが採取し続けていたもので、瓶につめられたまま更新されなくなってから、すでに6年は経過していました。
そこで、処分しようとする友人を止め、種を預からせてもらいました。小豆の種蒔きの季節は過ぎようとしていましたから、とにかく一晩水につけて、芽を出してくれることを祈りながら畑にビッシリと蒔いてみました。数日後、この豆の数粒が発芽し、やがて無事に種を採取する事ができたのです。発芽率は数パーセントだったと思います。お母さん思いだった友人は、もちろん、喜んでくれました。この黒い小豆はお母さんの名前をとってチイマメと名付けることにしました。
種から種へ、人から人へ。
私のシードガーデンには、よく近所の子供たちが遊びに来ます。先日、私がプレゼントした種を「宝箱に入れたの」と言ってくれた子供がいました。私がおばあちゃんになる頃、この種たちが素敵な物語となっているかもしれません。
自家採種の究極的楽しみとは、自分が育てて採種しつづけた種が、いつの日かエアルームシードになることでしょう。今年から、さっそく種採りをはじめてみませんか? あなたの物語が刻まれた種子を、未来に手渡しましょう。
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